y-fukuta2ndのブログ

思いついたことや気になったことを、気の向くままに書き留めているブログです。

一区切りの夜

気づけば8月になっていました。7月の1か月はあっという間に過ぎ去り、今夜、私はその時間を振り返りながらこれを書いています。

私は8月から新しい会社へ転職します。前の会社の最終出社日は7月3日、雇用契約上の最終日は7月31日でした。つまり、約1か月を有給休暇の消化に充てることができました。

しかし、その1か月も終わってみれば、あっという間でした。「もう少し時間が欲しかった」という物足りなさや、「あれもこれもやっておけばよかった」という後ろめたさがあります。その一方で、明日8月3日はいよいよ新しい環境へ飛び込む初日です。期待と不安、名残惜しさと緊張感。さまざまな思いが私の中を駆け巡っています。

唯一残念だったのは、季節です。これほどの猛暑の中で、二度とないかもしれない1か月という時間を得ても、外へ出ること自体が大きな負担でした。まさに宝の持ち腐れのような感覚です。それでも何度か外出しました。しかし、「楽しかった」という気持ちだけではなく、「暑い」「つらい」と感じる場面も少なくありませんでした。もしこれが別の季節だったなら、もっと素直に楽しめたはずです。私にとって、この時期だったことだけが唯一の心残りでした。

そして、気づけば、この1か月はほぼ毎日のようにここへ書き込んでいました。日常に少しでも変化をつけたくて、再び書き始めました。しかし、明日からはそうもいかないでしょう。

この1か月、私は自分のペースで毎日を過ごしてきました。明日からは、その体と気持ちを再び仕事の時間に合わせていかなければなりません。早朝に家を出て、夜遅くに帰宅する。そんな日常が再び始まります。

長い週末が終わる感覚に近いのかもしれません。ただ、今回は元の日常へ戻るのではありません。これまでとは違う会社で、違う仕事をし、違う人たちと過ごす、新しい日常が始まります。今日までと明日からでは、同じ一日でも、時間の流れ方はまったく違うのでしょう。

今夜は、その境目にあります。これまでの日々を手放す寂しさはありますが、それでも、明日から始まる新しい時間を前向きに受け入れていきたいと思います。

沈黙が心地よい二人

接客業を長く続けていると、テーブルについた二人の「関係の質」というものが、言葉以上に雄弁に見えてくる瞬間がある。

多くの人は、他者との間に生じる沈黙を恐れる。沈黙は関係の停滞や拒絶のように思えるからだ。だからこそ、人は焦って話題を探し、表層的な会話という「行動」を重ねることで、お互いの距離を埋めようとする。

だが、ある秋の午後、テラスの2番テーブルに座った二人だけは違っていた。

男性は眼鏡をかけ、落ち着いたジャケット姿で湖を見つめている。女性はボブヘアで、冷たいグラスを両手で包み込みながら、静かに男性の横顔を見上げている。

最初は、新婚旅行のカップルかと思った。 男性が握る冷めたコーヒーカップのわずかな躊躇。女性が彼をじっと見つめる熱を帯びた眼差し。そこには確かに、恋の始まりのような初々しい甘さが漂っていたからだ。

……しかし、彼らの様子を観察するうちに、妙な違和感が胸に生じる。

この二人には、気まずさを埋めるための無駄な会話が一切ない。 それどころか、「何かを話さなければならない」という焦りや緊張が、二人の空間から綺麗に消え去っているのだ。

男性がカップを置くわずかな動作に対して、女性は視線すら動かさずに、テーブルの上の小物を自然な位置へと微修正する。お互いがお互いの存在を何一つ評価も批判もせず、ただそのまま受け入れている。

会話がないのではない。 「会話という手段を使わなくても、互いの安全と承認が満たされている」という、恐ろしいほど高い「関係の質」が、すでに二人の土台に築かれているのだ。

新婚のような初々しい甘さと、何十年も連れ添った老夫婦のような絶対的な安心感。 若く見える佇まいの裏に隠された、正体不明の老練さ。

新婚なのか、熟年なのか。あるいは、酸いも甘いも噛み分けた末に辿り着いた、全く新しい関係なのか。指輪の有無を確かめることすら野暮に思えるほど、彼らの空間は美しく、そして謎に満ちていた。

男性がふと湖から視線を外し、女性を見た。 女性も、ずっと見つめていた彼の横顔に、さらに深みのある笑みを返した。

手も触れ合わなければ、言葉も交わさない。 けれど「そこに相手がいる」という事実だけで、二人の周囲の空間が静かに満たされていく。

結果や言葉を求め合わない、ただ存在を認め合う関係性。 その圧倒的な土台があるからこそ、彼らはこの静寂を「気まずさ」ではなく「豊かな時間」として享受できているのだろう。

カテゴリーに当てはめられないその空気感こそが、誰にも侵せない二人の領域なのだと思う。

「お下げしてもよろしいですか?」

お冷やのおかわりを持って声をかけると、二人は同時にこちらを向き、まったく同じ、けれどどこか少年少女のような無邪気な笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます」

重なるように響いたその声は、湖風の中にすっと溶けていった。 言葉を持たない二人のテーブルには、今日も、安易な分類を拒むような時間が静かに流れている。

あの日の二人は、こんな時間を過ごしていた。

完全な革底とトゥスチールが私の歩き方の癖を鮮明に可視化してくれた

おととい、ハドソン靴店に修理してもらった靴を紹介しました。そして今日、実際にそれを履いて、履き心地を確かめました。

履き心地に違和感無し

3時間ほど履きました。結果は「問題無し」でした。店先で試し履きした時と同じでした。私のスタイルに靴の各所が最適化されているので、それらに関する変化はありませんでした。

昼過ぎから夕方にかけて履きましたが、足のむくみなどの影響もありませんでした。

完全な革底は今回が初めて

実は、修理前の靴底(ソール)は、革をベースとしつつ滑り止めのゴムが埋め込まれたハイブリッドでした。購入してからハドソン靴店で直してもらうまでの長い間、その靴はオリジナルの仕様でしたので、私はその当時の感覚が残っていて、その点では違和感をまだ克服できていないです。

違和感

  1. 厚底靴を履いている感覚を覚えました。物理的にも厚みが違うのは目でわかります。しかしそれは、屈曲が困難という意味ではありません。かつての靴と今の靴の違いに、まだ感覚が追い付いていないだけです。
  2. 滑ります。今まではゴムが摩擦材として機能していたので全く気づきませんでしたが、いつもの駅の路面、馴染みの店の床、ざっくりまとめればアスファルト以外の路面で滑りました。点字ブロックでも苦戦しました。ソールと接する面積が少ないうえにブロックの素材のせいで滑りますから、良い勉強になりました。

以前から自覚していた歩き癖がはっきりくっきり示された

ハドソン靴店で修理前の靴を精査してもらったときに指摘されたことがありました。それは歩き方の癖でした。私は靴の先端の摩耗が他の部位よりもずば抜けて早いです。そして今回、修理前の靴もその状況で、靴の先端がなくなりかけていることに対する処置というのが実際のところでした。

トゥスチール仕様も初めての経験です。そして今日、その靴を初めて使った結果を見てください。

修理後初回使用結果

左右先端の全体概況

先端拡大図

金属表面が荒れているのがわかります

初日で既に先端が削れました。もともとスチールのコバ側も色がついていたのですが、削れたので、黒とシルバーの色の差が良く判ります。そして、右足側にはウェルトに傷もついてしまいました(縦方向に目立つ筋みたいなもの)。その右足の靴をじっくり見てみると、アッパー側に古傷があります。それらがすべて一直線でつながっていると解釈すると、これはまさに私の歩き方の癖と言えるでしょう。

言い訳ではありませんが、現在の住まいは、最寄り駅の方が地上高が高いです。家から駅に行くときは緩い坂を上り、その逆は緩い坂を下ります。そして、現在の住まいの周りには畑が点在しています。そのため、路面には畑の砂なども集まっています。グレーチングが設置された歩道を歩きますので、障害物はたくさんあります。

なお、ここで表現したいことは「傷がついたから、嫌だ」という美観の話ではありません。そうではなく、使いながら滲み出てくる味わい、つまりエージング、こちらです。

ということで、スチールがあるおかげで、歩き方の癖や各種路面状況や障害物によって先端が削れることを防いでくれていることを身をもって知ることができました。私にとってトゥスチールは必須です。もっと早く知っていたらよかったのに・・・と後悔しています!

レザーソールの靴の使用後の扱いをChatGPTに訊いてみた(参考)

あなたの場合のメンテナンス頻度

履いた後

  • 革底を乾拭きまたはブラッシング
  • アッパーを馬毛ブラシでブラッシング
  • シューツリーを入れる

数か月に1回(または乾燥が気になったとき)

  • レザーソールリキッドを塗布

レザーソールに対するおすすめブラシ

  • SANOHATA BRUSH 豚毛(M.MOWBRAY)

実際のブラッシング内容・フロー

普段(乾いている場合)

  1. ソールを豚毛ブラシでブラッシング
  2. 必要なら乾いた布で軽く拭く
  3. シューツリーを入れて休ませる

ソールが濡れている場合

  1. 乾いた布で水分を軽く拭き取る
    • ゴシゴシ擦る必要はありません。
    • 水滴を吸い取るイメージです。
  2. 風通しの良い場所で自然乾燥
    • ドライヤーや直射日光は避けます。
  3. 乾いてからブラッシング
    • 乾燥した泥や砂を落とします。
  4. 必要に応じて保革剤(レザーソールリキッドなど)を使用

なぜ濡れたままブラッシングしないのか

革底が濡れていると繊維が柔らかくなっています。その状態でブラシを強くかけると、

  • 泥や砂を革の表面に擦り込んでしまう
  • 革の毛羽立ちを招く
  • 不要な摩耗につながる

可能性があります。

あなたの運用なら(提案)

雨の日は履かず、5~6日に1回の着用予定とのことでしたので、通常は帰宅時にソールが乾いていることがほとんどでしょう。

その場合は、

  1. 豚毛ブラシで軽くブラッシング(20~30秒程度)
  2. シューツリーを入れて保管

だけで十分です。

もし小雨に当たったり、水たまりを踏んだりしてソールが湿っていたら、その日だけは「拭く → 自然乾燥 →(乾いてから)ブラッシング」という順番にしてください。これが革底への負担が最も少ない方法です。

そりゃそうだよね~♪サイズが合わなくてもいいもん!

回顧録 ― 自分が直近の会社を辞めるまでに考えていたこと

2026年7月末で退職した。8月からは新しい会社で働く。

退職を決めるまで、当時の職場への違和感が少しずつ積み重なっていた。部署の運営、そこで働く人たちの振る舞い、その背景にあるのではないかと考えた会社のカルチャーや体質。それらが自分の価値観と合わないと判断したことが、退職の土台になった。

事実と意見を区別したく、この記事では、内容を三つの層に分ける。自分が部署内で直接見聞きした事実、それを自分がどう受け止めたか、複数の出来事の背景に部署だけでは完結しない要因があったのではないかという仮説である。後の二つは自分の解釈であり、会社全体を調査して得た結論ではない。

誰かを名指しで責める意図はないため、個人や案件を特定できる情報は省いている。ただし、実際に見聞きした出来事は、意味を変えない範囲で記載する。

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ChatGPTと所有しているジャズのCDをテーマにチャットしていたら、最終的に私の根本的価値観を示してくれた

今日も猛暑・酷暑な一日でしたね。私はおかげさまで、冷房が効いた涼しい部屋で過ごすことができました。

冷房が効いた部屋で音楽鑑賞していましたが、ふと手に取って聞いていたDuke Ellington "Three Suites"の収録内容をネタにChatGPTとチャットしていたら、意外な方向に話が進み、最終的に何か哲学っぽくなってしまいました。

ただ、その内容が中身が無い雑談ではなく、むしろ私自身が気づいていなかった私自身の価値観の最も根本的なところを表現してくれた結果になりました。

おそらく、私しか理解できないと思いますが、チャットをまとめさせた結果を紹介します。超長文なので省略表示にしました。もし、その内容を見ていただいた感想として、「あの人、変態だ」と思っていただけたら大変ありがたいです笑

私の根本的価値観――「関係の質」と共同創造について

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今と昔を比較したら、あまりの価格差に開いた口が塞がりませんでした

昨日、靴の修理について書きました。今回は、その続きです。

私は、靴を注文したときの情報を記録した控えを、まだ持っていたはずだと記憶していました。そこで、久しぶりに見返してみることにしました。

控えはすぐに見つかりました。しかし、懐かしさに浸る間もなく、そこに記載された価格と現在の価格を比較し、言葉を失いました。

オーダー内容

足の計測結果

項目
足囲 268mm 266mm
足長 250mm 246mm

仕様

Design Color Class Size LAST
W26T B EDRE 25.5 ラウンドトゥ-E
  • 甲革:ボックスカーフ(ウェインハイムレダー社) ブラック
  • ライニング:ボルドー
  • ソール:ラバーコンポジットソール
  • ヒール:積上+ラバーリフト
  • 税込み価格:58,320円
  • 注文日:2016年6月4日

2026年7月時点で同等品を注文した場合

前提条件

  1. 現在のサービスで同等品を注文する
  2. 可能な限り当時と同じ仕様に近づける

新旧比較対照表として、情報をまとめてみました

項目 2016年当時 2026年7月時点
デザイン W26T 『ローファー』と記載
甲革 ボックスカーフ(ウェインハイムレダー社) ボックスカーフ(ドイツ製)
黒のみ(素材に対して選べる色が決まっている)
ライニング ボルドー ボルドー
ラスト ラウンドトゥ-E ラウンドトウ
ソール ラバーコンポジットソール 左記は記載無し
ヒール 積上+ラバーリフト 左記は記載無し
税込み価格 58,320円 標準価格60,500円から、ただし、ボックスカーフ(ドイツ製)は91,300円

価格差を見て思ったこと

前提条件に基づいた結果です。事情が変化しているため、参考までの結果です。

価格だけ見たら・・・

私は当時の事情を知っているので、今同じことをするかと言われたら、悩みます。別の見方をすれば、現在9万円の価値があるものを当時5万円で手に入れたことになります。メーカーには感謝しかありません。

この靴に込めた思い

購入までの経緯

昨日の記事では、この靴の修理について書きました。その中で、この靴には特別な思い入れがあることにも触れました。

一言で表現すれば、自分へのご褒美として購入した靴です。

私がこの靴を注文したのは、自分の誕生月であり、新卒就職してから11年が経過した時期でした。就職10年目に当たる2015年に購入していてもおかしくありません。しかし、実際の購入が2016年になったのは、当時の仕事があまりにも忙しく、自分のために時間を使うことが難しかったからです。それが転職を決めた理由の一つでもありました。

その後、転職先での生活が落ち着いてきた頃に、「そういえば、就職してから11年が経った」と振り返りました。そこで、一つの節目として、この靴を注文することにしました。

なぜローファーを選んだのか

私にとって、ローファーは「本物の大人が履く靴」でした。

高校の制服に指定されることもあるように、ローファーは比較的身近で、広く知られている靴です。しかし、身近な靴だからこそ、品質の良し悪しや扱い方が見た目にも表れやすいと私は感じています。つまり、「良いものを、さりげなく、履きこなす」ことができる大人になりたい、そういう思いがありました。

ここで書きたいのは、ファッションやローファーという靴の歴史や成り立ちではありません。あくまで、私がローファーに抱いていた価値観です。

就職して11年が経過し、私もある程度は社会に受け入れてもらえたのではないかという、淡い期待がありました。これまでの自分に一つの区切りをつけたい。その思いを形にしたものが、このローファーでした。

As of 2026/7/31

10年愛用した靴を、次の10年へ――思いを理解してくれた職人との出会い

私の靴一覧

皆さんは、どんな靴をどのくらいお持ちでしょうか。

先日、私のワードローブ(笑)を紹介しましたが、靴も必要最低限しか所有していません。その構成を見れば、おそらく予想できると思いますが、持っているのは仕事用の靴だけです。

すべてリーガル製

  • プレーントゥ(いずれもレインシューズ仕様)
    1. 黒 1足
    2. 茶 1足
  • ストレートチップ
    1. 黒 1足 雨以外
    2. 黒 1足 レインシューズ仕様
  • ローファー
    1. 黒 1足 レインシューズ仕様
    2. 黒 1足 REGAL Built to order system
    3. ワイン 1足 プライベート専用、雨以外

きっかけはYouTubeだった

今回、「黒 1足 REGAL Built to order system」のソールの消耗が限界を超えました。

実は、この靴については過去に記事にまとめたことがあります。

y-fukuta2nd.hatenadiary.jp

前回は、メーカーに修理してもらうという話でした。しかし今回は、それで本当に良いのかと疑いました。理由は一つだけです。

この靴は10年以上履いており、素人が見てもさまざまなところが劣化しています。それにもかかわらず、メーカーは私が申告した箇所だけを修理します。それで本当に、この靴を長く使い続けることにつながるのだろうかと思ったのです。

もちろん、依頼した修理は適切に行われます。しかし、靴底を交換する過程で見つかる他の劣化については、基本的に手を付けずに戻ってきます。

私は今回それを譲歩しないことに決め、メーカーへ修理を依頼することをやめました。では、代わりに誰に依頼すればいいのか・・・そんなことを考えていた時期に、ある靴店をYouTubeで偶然知りました。今回お世話になった、横浜の「ハドソン靴店」です。

セカンドオピニオン的なことを期待していたら、いつの間にか主治医として対応をお願いしていた

修理を依頼するとは決めずに訪れた

2026年4月9日に今回のローファーを持参しました。ハドソン靴店を訪れた時点では、私はここに修理を任せると決めていたわけではありませんでした。

この靴は、購入してから10年以上が経っています。その間、リーガルに3回ほどオールソールを依頼してきました。上記のようにメーカー修理に不満があったわけではありません。ただ、今回は少し事情が違いました。もともと選んだ底材は、車を運転する際の滑りにくさを考えたものでした。しかし、今ではその用途にこだわる必要がなくなっています。

せっかく修理するなら、これまでと同じ仕様に戻すのではなく、この靴をできるだけ長く履くための方法を、別の専門家にも聞いてみたい。いわば、セカンドオピニオンを求めての訪問でした。

元に戻すのではなく、これからの10年を考える

持ち込んだ靴を見ながら、この靴のこと(なぜこの仕様にしたのか、そしてこの靴に対する思いなど)と、この靴に対して実施した過去の修理内容などを店主に伝えると、まず、現在使われているインジェクションソールの構造と寿命について説明を受けました。

革そのものは長く使えます。一方で、ゴムやウレタンは経年劣化を避けられず、現在の底材のまま、さらに10年使うことは難しいそうです。現在と同じ仕様へ戻す方法もあります。しかし、革底へ変更し、摩耗する部分だけを将来交換できる構造にした方が、土台を生かしながら長く履けるとのことでした。

ここで、すでに私が聞きたかった答えの半分は得られていました。メーカーへ持っていけば、「前回と同じ仕様で直しますか」と確認され、それで話は終わります。もちろん、それは間違いではありません。しかし、私が今回知りたかったのは、元に戻す方法ではなく、この靴にとって今後どのような修理が適切なのかということでした。

ハドソン靴店での説明は、そこからさらに深く、核心に迫る展開になっていきました。

見た目よりも、靴への負担を減らす

この靴はグッドイヤーウェルテッド製法で作られており、オールソールでは、靴本体と底をつなぐウェルトという部材を残して、その下を交換できます。ただし、現在の縫い方では、修理後のステッチが部分的に見える可能性があります。

見た目を優先するなら、ウェルトまで交換する方法があります。一方、既存のウェルトを再利用すれば、仕上がりに多少の変化は生じるものの、靴への負担と費用を抑えられます。

「他人が至近距離で見なければ分からない程度なら、私は気にしません。」そう答えると、ウェルトを生かす方針が決まりました。

革底を保護するか、靴全体の寿命を優先するか

次に話題になったのが、革底の前半にハーフラバーを貼るかどうかでした。

日本の床やタイルで革底を履けば、滑りやすさは避けられません。実用性を重視するなら、ハーフラバーを貼る方がよい。一方で、靴の寿命を最優先する人は貼らないといいます。合成ゴムで底を覆うことにより、靴の基礎に当たる中底へ負担がかかる可能性があるからだという説明でした。

どちらが正解という話ではありません。日常での使いやすさを取るのか、可能な限り靴の寿命を延ばすのか。職人が一方的に決めるのではなく、持ち主の仕事や使い方、考え方によって選択が変わります。

私の答えは、比較的はっきりしていました。靴は使ってこそのものだと思います。ただし、手入れや修理によって長持ちさせられるのであれば、ハーフラバーは不要でお願いしたい・・・。その後、店主とやり取りして、結論として、今回はハーフラバーを貼らず、まずは革底のまま履くことにしました。実際に滑りや摩耗が気になるようなら、あとから貼ることもできます。最初からすべてを決め切る必要はない、という考え方にも納得できました。

一方、つま先にはスチールを取り付けることにしました。私の靴は、他の部分に比べてつま先だけが明らかに早く減っています。歩き方や、側溝の金網などへ引っ掛けることが原因らしいです。トゥスチールは、実用性を重視する人にも、寿命を重視する人にも支持される、数少ない修理だといいます。

依頼していない場所まで診てもらう

ここまでは、底(ソール)をどのように直すかという相談でした。ところが、職人の目は、私が修理を依頼しようとしていた箇所以外にも向けられていました。

靴の内側を触るように言われ、私も指先で確かめてみると、爪の上部や小指の側面に、革が薄くなっている場所がありました。外から見ただけでは、私には分からなかった部分です。さらに、かかとの内側にも擦れがあります。表面の一部には、ぶつけて革がえぐれた傷もありました。

それぞれについて、今すぐ修理した方がよい場所と、経過を見てもよい場所が区別されました。全部を同時に直すこともできます。しかし、それでは費用が大きくなります。本来は1年から1年半に一度ほど靴を見せてもらい、その時点で必要な修理だけを順番に行うものだといいます。

そして、店主からこう言われました。

  • 修理するものがなくても、靴を持ってきて構わない。
  • 今は直さなくてよいところを、無理に修理することは勧めない。
  • 定期的に見せてもらえれば、「もうすぐここが傷みそうなので注意してください」と伝えることができる。

傷を消すのではなく、進行を止める

この話を聞いたとき、私の中で、この店の位置づけが変わりました。

私は、メーカーとは異なる見方を聞くために来たつもりでした。現在の修理方針について別の専門家から意見を聞き、その中から納得できるものを選ぼうとしていました。

しかし、ここで提示されたのは、今回の修理方法だけではありませんでした。この靴がどのような構造で作られているのか。現在どこが傷んでいるのか。どこは今すぐ処置する必要があり、どこは経過を見られるのか。さらに、これから先、どのような間隔で状態を確認し、どの順番で手を入れていけば長く履けるのか。それは、故障した箇所だけを直す修理というより、一足の靴を継続的に診ていくための方針でした。

表面のえぐれた傷についても、完璧に埋めて新品のように見せる方法と、傷を残しながら進行を止め経年変化の一部として「味のある」付き合い方が示されました。前者は、修理直後にはきれいに見えます。しかし、顔料や鏡面仕上げは日々の手入れによって少しずつ剥がれ、完成時を頂点に減点されていきます。後者は、最初から完全には消えません。ただし、革本来の染料による表情を保ち、これまでと同じ手入れを続けられます。今後増えていく傷も含めて、その靴の履歴として馴染んでいきます。

私が気にしていたのは、傷が見えることよりも、そこから革の損傷が広がらないかということでした。その危険を防げるのであれば、新品同様に見せる必要はありません。

結論として後者、傷を完全には消さず、めくれた革を寝かせ、染料を入れて進行を抑える方法を選びました。

一度の修理相談が、これからの管理方針に変わった

最終的に依頼したのは、ウェルトを再利用した革底へのオールソール、トゥスチールの取り付け、指の当たる部分の内側からの補強、そして表面の傷の処置でした。

店を訪れる前には、そこまで具体的な修理内容を想定していませんでした。まして、今後も定期的に状態を見てもらうことになるとは考えていませんでした。

私は、これまでの修理方針が適切だったのか、別の専門家の意見を一度聞いてみるつもりで店を訪れました。それが、1時間以上にわたって靴の構造や使い方、修理の優先順位について話を聞くうちに、いつの間にか、この先の管理まで任せるつもりになっていました。

セカンドオピニオンを求めて受診したはずが、診察を終える頃には、その医師を主治医に決めていました。そんな感覚に近いものでした。

2026年4月9日オーダーシート

そして今日、受け取ってきました

先週連絡があり、今日受け取ってきました。

2026年7月30日ハドソン靴店修理結果_全体

履き口の補色(サービス)

先端のえぐれ傷の補修結果

スチール側のねじ穴を拡幅するこだわり

見た目も、履き心地も、問題ありません。むしろ、メーカー修理後の履き心地と比較すると、きつさが無いどころか、妙なくらいのフィット感がありました。それを思わず店に伝えたところ、彼らは笑っていました。

お店を訪問したのは午後3時です。また、私はここ最近は靴を履いて外出・通勤していません。足の状態によっても履き心地や印象は変わるため、これだけで「問題なし」と判断するのではなく、しばらく様子を見てほしいと注意を受けました。私も納得したので、しばらく履きながら状態を確認してみます。

履き心地の確認が終わると、店主が「提案ですが・・・」ということで、「恐れ入ります」と答えて、履き口の色落ちも無償で直してくれました。

ところで、ハドソン靴店をYouTubeで見ると分かるのですが、店主はとにかく忙しそうです。接客時の印象は、人当たりのよい「いいお兄ちゃん」(実は私と同い年であることが初回で判明)ですが、内に秘めた技術力の高さと的を射た提案力(要は総合的な人間力、人柄、人となりですね)を見れば、それらを求める人から依頼が殺到することは容易に想像できます。

もともと私も、店主本人に修理を担当してもらうことを想定していました。しかし、店主からは次のように説明されました。

  • 自分が担当することもできるが、その場合は6か月以上かかる。
  • もし任せてもらえるなら、弟子に担当させたい。その場合、納期は2か月程度を見込んでいる。
  • ただし、必要な確認と最終チェックは、店主である自分が責任を持って行う。

私は、その提案に賛成しました。なぜなら、技能を必要とする仕事では、実際の作業を経験しなければ人は育ちません。理論を理解するだけではなく、実際に手を動かし、結果を確認し、修正を重ねることで、初めて技術が身に付いていきます。

店主が弟子に作業を任せるのも、単に自分が忙しいからではありません。店の技術を次の世代へ引き継ぐために、弟子へ経験を積ませようとしているのだと思いました。一方で、後継者育成を理由に、お客の靴を無責任に任せているわけでもありません。作業は弟子が行い、必要な確認と最終的な品質の判断は店主自身が行う。

つまり、弟子に経験を積ませながらも、依頼を受けた店としての責任は店主が負うということです。私は、その考え方に納得しました。

実は私自身も、これまで技能や技術に関わる仕事をしてきました。人を育てるには、任せる必要があります。しかし、任せることと、責任まで手放すことは別です。担当者に経験を積ませながら、最終的な責任は上位者が負う。一般論として考えても、部下の仕事に責任を負うのは上司です。

店主が説明した役割分担は、自分の仕事に対する考え方とも重なるものでした。そして、私がこの修理で求めていたのは、「店主本人にすべての作業をしてもらうこと」ではありません。私が求めていたのは、この靴が今後10年履き続けられるように、適切な方法で修理されることでした。その目的が実現できるのであれば、作業を担当する人が店主本人であるか、店主の指導を受けた弟子であるかは、本質的な問題ではありません。もちろん、一定の品質が保証されていることが前提です。だからこそ、この店では初回のヒアリングを重要視しているのだと思います。私の場合、もともとは1時間の予定だった相談が、気づけば2時間近くになっていました。

  • 靴の傷んだ箇所を確認するだけではありません。
  • この靴を今後どう使いたいのか。
  • 何を優先するのか。
  • どこまで見た目を求めるのか。
  • 修理しながら何年履き続けたいのか。

そうした私の思いや考え、将来の姿、価値観まで共有したうえで、修理方針が決められていきました。

目的と考え方が共有され、店として一定の品質が保証されるのであれば、誰がどの工程を担当するかは、それほど大きな問題ではありません。むしろ、私の靴の修理が、次の職人を育て、店の技術を将来へ引き継ぐための経験になるのであれば、それにも価値があると感じました。

長く使えるものを修理し、次の時間へ引き継いでいく。同時に、その修理技術も次の世代へ引き継がれていく。私がこの靴を長く使いたいと思うことと、店主が技術を次の世代へ残したいと考えることは、どこか似ているのかもしれません。

ということで、試し履きで付いた傷も簡易的に均してもらい、修理完了ということで店を後にしました。

最後に少しだけ、皆さんが気になる修理代です。正直な話として、決して安くありません。修理ではなく、新品の高級靴を買うという選択肢すら検討できます。しかし、私は愛着のあるものを修理しながら長く使うことに価値を感じます。よって、今回の件は修理費用以上の価値(プライスレス)を得て、大変満足しています。

父の一足、10年その先へ:受け継いだのは、革靴ではなく、父の歩んだ時間。