私の靴一覧
皆さんは、どんな靴をどのくらいお持ちでしょうか。
先日、私のワードローブ(笑)を紹介しましたが、靴も必要最低限しか所有していません。その構成を見れば、おそらく予想できると思いますが、持っているのは仕事用の靴だけです。
すべてリーガル製
- プレーントゥ(いずれもレインシューズ仕様)
- 黒 1足
- 茶 1足
- ストレートチップ
- 黒 1足 雨以外
- 黒 1足 レインシューズ仕様
- ローファー
- 黒 1足 レインシューズ仕様
- 黒 1足 REGAL Built to order system
- ワイン 1足 プライベート専用、雨以外
きっかけはYouTubeだった
今回、「黒 1足 REGAL Built to order system」のソールの消耗が限界を超えました。
実は、この靴については過去に記事にまとめたことがあります。
y-fukuta2nd.hatenadiary.jp
前回は、メーカーに修理してもらうという話でした。しかし今回は、それで本当に良いのかと疑いました。理由は一つだけです。
この靴は10年以上履いており、素人が見てもさまざまなところが劣化しています。それにもかかわらず、メーカーは私が申告した箇所だけを修理します。それで本当に、この靴を長く使い続けることにつながるのだろうかと思ったのです。
もちろん、依頼した修理は適切に行われます。しかし、靴底を交換する過程で見つかる他の劣化については、基本的に手を付けずに戻ってきます。
私は今回それを譲歩しないことに決め、メーカーへ修理を依頼することをやめました。では、代わりに誰に依頼すればいいのか・・・そんなことを考えていた時期に、ある靴店をYouTubeで偶然知りました。今回お世話になった、横浜の「ハドソン靴店」です。
セカンドオピニオン的なことを期待していたら、いつの間にか主治医として対応をお願いしていた
修理を依頼するとは決めずに訪れた
2026年4月9日に今回のローファーを持参しました。ハドソン靴店を訪れた時点では、私はここに修理を任せると決めていたわけではありませんでした。
この靴は、購入してから10年以上が経っています。その間、リーガルに3回ほどオールソールを依頼してきました。上記のようにメーカー修理に不満があったわけではありません。ただ、今回は少し事情が違いました。もともと選んだ底材は、車を運転する際の滑りにくさを考えたものでした。しかし、今ではその用途にこだわる必要がなくなっています。
せっかく修理するなら、これまでと同じ仕様に戻すのではなく、この靴をできるだけ長く履くための方法を、別の専門家にも聞いてみたい。いわば、セカンドオピニオンを求めての訪問でした。
元に戻すのではなく、これからの10年を考える
持ち込んだ靴を見ながら、この靴のこと(なぜこの仕様にしたのか、そしてこの靴に対する思いなど)と、この靴に対して実施した過去の修理内容などを店主に伝えると、まず、現在使われているインジェクションソールの構造と寿命について説明を受けました。
革そのものは長く使えます。一方で、ゴムやウレタンは経年劣化を避けられず、現在の底材のまま、さらに10年使うことは難しいそうです。現在と同じ仕様へ戻す方法もあります。しかし、革底へ変更し、摩耗する部分だけを将来交換できる構造にした方が、土台を生かしながら長く履けるとのことでした。
ここで、すでに私が聞きたかった答えの半分は得られていました。メーカーへ持っていけば、「前回と同じ仕様で直しますか」と確認され、それで話は終わります。もちろん、それは間違いではありません。しかし、私が今回知りたかったのは、元に戻す方法ではなく、この靴にとって今後どのような修理が適切なのかということでした。
ハドソン靴店での説明は、そこからさらに深く、核心に迫る展開になっていきました。
見た目よりも、靴への負担を減らす
この靴はグッドイヤーウェルテッド製法で作られており、オールソールでは、靴本体と底をつなぐウェルトという部材を残して、その下を交換できます。ただし、現在の縫い方では、修理後のステッチが部分的に見える可能性があります。
見た目を優先するなら、ウェルトまで交換する方法があります。一方、既存のウェルトを再利用すれば、仕上がりに多少の変化は生じるものの、靴への負担と費用を抑えられます。
「他人が至近距離で見なければ分からない程度なら、私は気にしません。」そう答えると、ウェルトを生かす方針が決まりました。
革底を保護するか、靴全体の寿命を優先するか
次に話題になったのが、革底の前半にハーフラバーを貼るかどうかでした。
日本の床やタイルで革底を履けば、滑りやすさは避けられません。実用性を重視するなら、ハーフラバーを貼る方がよい。一方で、靴の寿命を最優先する人は貼らないといいます。合成ゴムで底を覆うことにより、靴の基礎に当たる中底へ負担がかかる可能性があるからだという説明でした。
どちらが正解という話ではありません。日常での使いやすさを取るのか、可能な限り靴の寿命を延ばすのか。職人が一方的に決めるのではなく、持ち主の仕事や使い方、考え方によって選択が変わります。
私の答えは、比較的はっきりしていました。靴は使ってこそのものだと思います。ただし、手入れや修理によって長持ちさせられるのであれば、ハーフラバーは不要でお願いしたい・・・。その後、店主とやり取りして、結論として、今回はハーフラバーを貼らず、まずは革底のまま履くことにしました。実際に滑りや摩耗が気になるようなら、あとから貼ることもできます。最初からすべてを決め切る必要はない、という考え方にも納得できました。
一方、つま先にはスチールを取り付けることにしました。私の靴は、他の部分に比べてつま先だけが明らかに早く減っています。歩き方や、側溝の金網などへ引っ掛けることが原因らしいです。トゥスチールは、実用性を重視する人にも、寿命を重視する人にも支持される、数少ない修理だといいます。
依頼していない場所まで診てもらう
ここまでは、底(ソール)をどのように直すかという相談でした。ところが、職人の目は、私が修理を依頼しようとしていた箇所以外にも向けられていました。
靴の内側を触るように言われ、私も指先で確かめてみると、爪の上部や小指の側面に、革が薄くなっている場所がありました。外から見ただけでは、私には分からなかった部分です。さらに、かかとの内側にも擦れがあります。表面の一部には、ぶつけて革がえぐれた傷もありました。
それぞれについて、今すぐ修理した方がよい場所と、経過を見てもよい場所が区別されました。全部を同時に直すこともできます。しかし、それでは費用が大きくなります。本来は1年から1年半に一度ほど靴を見せてもらい、その時点で必要な修理だけを順番に行うものだといいます。
そして、店主からこう言われました。
- 修理するものがなくても、靴を持ってきて構わない。
- 今は直さなくてよいところを、無理に修理することは勧めない。
- 定期的に見せてもらえれば、「もうすぐここが傷みそうなので注意してください」と伝えることができる。
傷を消すのではなく、進行を止める
この話を聞いたとき、私の中で、この店の位置づけが変わりました。
私は、メーカーとは異なる見方を聞くために来たつもりでした。現在の修理方針について別の専門家から意見を聞き、その中から納得できるものを選ぼうとしていました。
しかし、ここで提示されたのは、今回の修理方法だけではありませんでした。この靴がどのような構造で作られているのか。現在どこが傷んでいるのか。どこは今すぐ処置する必要があり、どこは経過を見られるのか。さらに、これから先、どのような間隔で状態を確認し、どの順番で手を入れていけば長く履けるのか。それは、故障した箇所だけを直す修理というより、一足の靴を継続的に診ていくための方針でした。
表面のえぐれた傷についても、完璧に埋めて新品のように見せる方法と、傷を残しながら進行を止め経年変化の一部として「味のある」付き合い方が示されました。前者は、修理直後にはきれいに見えます。しかし、顔料や鏡面仕上げは日々の手入れによって少しずつ剥がれ、完成時を頂点に減点されていきます。後者は、最初から完全には消えません。ただし、革本来の染料による表情を保ち、これまでと同じ手入れを続けられます。今後増えていく傷も含めて、その靴の履歴として馴染んでいきます。
私が気にしていたのは、傷が見えることよりも、そこから革の損傷が広がらないかということでした。その危険を防げるのであれば、新品同様に見せる必要はありません。
結論として後者、傷を完全には消さず、めくれた革を寝かせ、染料を入れて進行を抑える方法を選びました。
一度の修理相談が、これからの管理方針に変わった
最終的に依頼したのは、ウェルトを再利用した革底へのオールソール、トゥスチールの取り付け、指の当たる部分の内側からの補強、そして表面の傷の処置でした。
店を訪れる前には、そこまで具体的な修理内容を想定していませんでした。まして、今後も定期的に状態を見てもらうことになるとは考えていませんでした。
私は、これまでの修理方針が適切だったのか、別の専門家の意見を一度聞いてみるつもりで店を訪れました。それが、1時間以上にわたって靴の構造や使い方、修理の優先順位について話を聞くうちに、いつの間にか、この先の管理まで任せるつもりになっていました。
セカンドオピニオンを求めて受診したはずが、診察を終える頃には、その医師を主治医に決めていました。そんな感覚に近いものでした。
2026年4月9日オーダーシート
そして今日、受け取ってきました
先週連絡があり、今日受け取ってきました。
2026年7月30日ハドソン靴店修理結果_全体
履き口の補色(サービス)
先端のえぐれ傷の補修結果
スチール側のねじ穴を拡幅するこだわり
見た目も、履き心地も、問題ありません。むしろ、メーカー修理後の履き心地と比較すると、きつさが無いどころか、妙なくらいのフィット感がありました。それを思わず店に伝えたところ、彼らは笑っていました。
お店を訪問したのは午後3時です。また、私はここ最近は靴を履いて外出・通勤していません。足の状態によっても履き心地や印象は変わるため、これだけで「問題なし」と判断するのではなく、しばらく様子を見てほしいと注意を受けました。私も納得したので、しばらく履きながら状態を確認してみます。
履き心地の確認が終わると、店主が「提案ですが・・・」ということで、「恐れ入ります」と答えて、履き口の色落ちも無償で直してくれました。
ところで、ハドソン靴店をYouTubeで見ると分かるのですが、店主はとにかく忙しそうです。接客時の印象は、人当たりのよい「いいお兄ちゃん」(実は私と同い年であることが初回で判明)ですが、内に秘めた技術力の高さと的を射た提案力(要は総合的な人間力、人柄、人となりですね)を見れば、それらを求める人から依頼が殺到することは容易に想像できます。
もともと私も、店主本人に修理を担当してもらうことを想定していました。しかし、店主からは次のように説明されました。
- 自分が担当することもできるが、その場合は6か月以上かかる。
- もし任せてもらえるなら、弟子に担当させたい。その場合、納期は2か月程度を見込んでいる。
- ただし、必要な確認と最終チェックは、店主である自分が責任を持って行う。
私は、その提案に賛成しました。なぜなら、技能を必要とする仕事では、実際の作業を経験しなければ人は育ちません。理論を理解するだけではなく、実際に手を動かし、結果を確認し、修正を重ねることで、初めて技術が身に付いていきます。
店主が弟子に作業を任せるのも、単に自分が忙しいからではありません。店の技術を次の世代へ引き継ぐために、弟子へ経験を積ませようとしているのだと思いました。一方で、後継者育成を理由に、お客の靴を無責任に任せているわけでもありません。作業は弟子が行い、必要な確認と最終的な品質の判断は店主自身が行う。
つまり、弟子に経験を積ませながらも、依頼を受けた店としての責任は店主が負うということです。私は、その考え方に納得しました。
実は私自身も、これまで技能や技術に関わる仕事をしてきました。人を育てるには、任せる必要があります。しかし、任せることと、責任まで手放すことは別です。担当者に経験を積ませながら、最終的な責任は上位者が負う。一般論として考えても、部下の仕事に責任を負うのは上司です。
店主が説明した役割分担は、自分の仕事に対する考え方とも重なるものでした。そして、私がこの修理で求めていたのは、「店主本人にすべての作業をしてもらうこと」ではありません。私が求めていたのは、この靴が今後10年履き続けられるように、適切な方法で修理されることでした。その目的が実現できるのであれば、作業を担当する人が店主本人であるか、店主の指導を受けた弟子であるかは、本質的な問題ではありません。もちろん、一定の品質が保証されていることが前提です。だからこそ、この店では初回のヒアリングを重要視しているのだと思います。私の場合、もともとは1時間の予定だった相談が、気づけば2時間近くになっていました。
- 靴の傷んだ箇所を確認するだけではありません。
- この靴を今後どう使いたいのか。
- 何を優先するのか。
- どこまで見た目を求めるのか。
- 修理しながら何年履き続けたいのか。
そうした私の思いや考え、将来の姿、価値観まで共有したうえで、修理方針が決められていきました。
目的と考え方が共有され、店として一定の品質が保証されるのであれば、誰がどの工程を担当するかは、それほど大きな問題ではありません。むしろ、私の靴の修理が、次の職人を育て、店の技術を将来へ引き継ぐための経験になるのであれば、それにも価値があると感じました。
長く使えるものを修理し、次の時間へ引き継いでいく。同時に、その修理技術も次の世代へ引き継がれていく。私がこの靴を長く使いたいと思うことと、店主が技術を次の世代へ残したいと考えることは、どこか似ているのかもしれません。
ということで、試し履きで付いた傷も簡易的に均してもらい、修理完了ということで店を後にしました。
最後に少しだけ、皆さんが気になる修理代です。正直な話として、決して安くありません。修理ではなく、新品の高級靴を買うという選択肢すら検討できます。しかし、私は愛着のあるものを修理しながら長く使うことに価値を感じます。よって、今回の件は修理費用以上の価値(プライスレス)を得て、大変満足しています。
父の一足、10年その先へ:受け継いだのは、革靴ではなく、父の歩んだ時間。